Meet@LakeTown for saitama

VOL.39

300年の伝統をアートで革新
越谷だるまがつなぐ地域と未来

300年の歴史を持つ「越谷だるま」。スッと通った高い鼻、色白で優美な顔立ちから「美男子」と呼ばれることもある伝統工芸品です。この越谷だるまに独自のアートデザインを施した「だるまアート」が注目を集めています。2020年の年末から毎年、イオンレイクタウンで開催されている「越谷だるまアート展」で、目にした方も多いのではないでしょうか。今回は、だるまアートを通じて地域の魅力を発信するハナブサデザインの花房茂さんに、その思いを伺いました。

だるまアート誕生秘話

「越谷だるま」の魅力とは何でしょうか?

花房茂さん(以下、花房)
幾つかありますが、職人が一つひとつ手作業で仕上げているため、一つとして同じものはないことでしょうか。越谷だるまを作っている工房は越谷市内に数カ所あり、おおよその描き方は決まっていますが、ひげや口の形の他に、眉に「寿」と描かれていたり、鼻が高く球体に近い丸いフォルムと工房ごとに異なる個性ある表情が、越谷だるまにひかれる理由かもしれません。

一つひとつ表情が違うのも越谷だるまの特徴。

越谷だるまと出会ったきっかけを教えてください。

花房
もともとデザイン会社で、店舗ディスプレイ、展示会などのデザインやディレクションをしていました。バブル崩壊以降、1990年代に日本のものづくりが海外に流出し、多くのものづくりやデザイン業界も様変わりしていきました。

越谷は日光街道の宿場町として栄え、越谷だるま、ひな人形、甲冑(かっちゅう)、桐箱など、昔からものづくりが盛んな土地だと知りました。デザインやアートの経験を生かして新たな切り口で、こうした伝統工芸や文化を広く発信していきたいと思い、活動を始めました。

越谷にある数ある伝統工芸の中で、越谷だるまを選ばれた理由は?

花房
ひな人形や甲冑などは、若い作家さんが育っていましたが、越谷だるまは後継者不足が深刻でした。職人の数が減り続け、なんとか応援したい気持ちがあったんです。

昔の越谷だるまは、「張子(はりこ)だるま」といって、木型に和紙を張り重ねて形を作り、色付けしていました。越谷市だるま組合を訪れた際、置かれていた木型と和紙で作られたボディを見た瞬間、これそのものが芸術作品だと感じたぐらい、とてもかっこよかったんです。

木型と張子のだるまからインスピレーションを受けて、作品を作り始めたんですね。

花房
そうですね。伝統と最新を掛け合わせることで、相乗効果で先鋭的なものになると考えました。すぐに材料を買いに行き、1週間ほどかけてボディに英字新聞を張って生まれたのが最初の「だるまアート」でした。

職人さんの反応はいかがでしたか?

最初はなかなか作品を見せることはできませんでしたが、だるまアートの話は伝えていました。ただ、だるまアートを販売すると、伝統的な越谷だるまの価値を損ねるのではないかと考え、そのため、だるまアートはあくまでアート活動として展開し、伝統工芸の応援を目的としました。

本格的にだるまの制作を始めたのは、2011年。東日本大震災が起こり、だるまアートに、夢や希望、人々の思いを込め、復興を応援する存在になってくれたらいいなという気持ちで制作をしました。

2011年、ハナブサデザインを設立。越谷の伝統工芸や地域活性化をデザインの力で支援することを目指し、地域資源の再生プロデュースを手がけ、さまざまな伝統工芸とのコラボレーションを展開。主な事例として、日本で唯一残る藍染め技術「籠(かご)染め」の型を活用した内照式オブジェ「籠染灯籠」のプロデュースやだるまアート「はりこ」などがある。

イオンレイクタウン発、だるまアートの世界

最初は、SNSなどで作品を発表されていたそうですね。

花房
はい。だるまアートの作品も増え、SNSなどで発信を始めたところ、展示のお話をいただく機会が増えました。2016年には東京ミッドタウンのイベント「MID DAY WEEK」で、だるまアートの展示監修を行い、2018年には越谷だるま芸術祭を開催しました。

さらに2020年には、グランフロント大阪ナレッジキャピタル主催の国際的なアワード「World OMOSIROI Award」のメインビジュアルと、国内外で活躍する受賞者へ贈られるトロフィーにだるまアートが採用されました。

各受賞者の実績を英字で記した和紙を張り込んだだるまアート。

そのような活躍があって、イオンレイクタウンとのつながりが生まれたのですね。

花房
イオンレイクタウンさんから声をかけていただいたのは、2020年の頃です。東京オリンピックを控え、年間5,000万人以上が訪れるイオンレイクタウンにも、外国人観光客をはじめ、多くのお客さまが来店すると予想されました。そのタイミングで、越谷の魅力を発信するため、伝統をアートという新たな切り口で表現していた私の活動に興味を持っていただきました。

当初は、2〜3メートルもある巨大なだるまアートを展示する計画でしたが、東京オリンピックが延期となり、計画も中止に……。それでも、2021年のお正月に向けて何かしましょうとお声をかけていただき、「越谷だるまアート展2021」を開催することができました。

だるまのボディに平安絵巻や風神雷神の絵、漆塗りのような和紙をあしらったアートだるまを展示。お子さんからお年寄りの方まで幅広い方が足を止め、作品を楽しんだ。

毎年恒例となった「越谷だるまアート展」では、虎や龍、うさぎなど、干支をモチーフにした作品も登場しますね。

花房
干支のだるまアートはモチーフによって難易度が変わるので、いつも頭を悩ませていました(笑)。例えばうさぎは、そのまま作るとシンプルになってしまうので、「鳥獣戯画」をヒントに、しらこばと橋のほとりでお酒をくみ交わすうさぎを描いたり、越谷出身の力士・阿炎(あび)がシコを踏む姿をうさぎで表現したりと、私も楽しみながら制作させていただきました。

各年の干支にちなんで制作されただるまアート。

2025年も「越谷だるまアート展」を開催予定です。次の干支である「へび」をモチーフにしただるまアートを準備しているので、楽しみにしていてください。

伝統と学びの融合

だるまアートの活動では、地元の子どもたちとのコラボレーションも進めているそうですね。

花房
2022年に、越谷市立中央中学校の1年生の作品と一緒に、色とりどりのだるまアート300個を展示したのが最初の試みでした。評判も良く、それ以来、参加する学校が増え、今年は市内4校、総勢約800名の生徒が参加。2025年のお正月には、一部をイオンレイクタウンでも展示する予定です。(3月には越谷市役所にて展示予定)

「新春 越谷だるまアート展 2024」。生徒一人ひとりの個性を感じられるだるまアートがずらり。

生徒たちにとって、楽しく学びながら地元の伝統工芸や文化に興味を持つ機会になっているようですね。

花房
そうですね。2023年には、越谷市の小学3・4年生向けの社会科副読本に、伝統工芸である「越谷だるま」と新たな取り組みとしての「越谷だるまアート」を掲載していただきました。さらに、レイクタウンにある叡明(えいめい)高校では、放送部が手がけた「越谷だるま・伝統と芸術の出会い」という映像作品が、埼玉県代表として関東地区高校放送コンクールに出場し、優秀賞(第2位)を受賞したそうです。

小学校で学び、中学で作り、高校で発信するという流れができていることに、うれしさを感じています。アートやデザイン、越谷の伝統文化に興味を持った子どもたちが、いつか越谷に関わる仕事をしてくれたらうれしいですし、地域への愛着や誇りを育むきっかけになればと思っています。

イオンレイクタウンと今後、どのようなことをしていきたいですか?

花房
イオンレイクタウンさんの集客力や発信力をお借りしながら、越谷ならではの観光資源を作っていけたらと思っています。だるまアートだけでなく、2024年7月には、越谷に伝わる藍染め技法「籠(かご)染め」の型(籠)を転用して制作した「籠染灯籠」を展示していただきました。

「イオンレイクタウンkaze 涼祭2024」で展示された籠染灯籠。使われなくなった籠に灯りを入れると繊細な和柄が浮かび上がる。幻想的な演出がお客さまの目を楽しませた。

また、子どもたちやアーティストと連携して、地域に根ざした灯りのアートイベントも開催したいなと思っています。そんな企画やアイデアをノートにいっぱい書きためています(笑)

今後の展望を教えてください。

花房
越谷だるまの後継者不足は今も変わらず、次世代に技術を継承するためにも、多くの人に越谷だるまの魅力を知っていただくことが重要だと思っています。お子さまからご高齢の方、さらには海外の方にも、だるまアートや籠染灯籠を通じて、越谷の歴史や伝統文化に興味を持っていただければうれしいです。今後も、アートの楽しさや発信力を生かし、越谷を応援していきたいですね。

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